<整備する時計>
Cal.0703A ELNIX (写真左)
仕様・説明
キャリバー :0703A
電池 :354 1.3V(径11.6mm,厚4.2mm)
電池寿命1年以上
テンプ振動数 :8振動(28800振動/時)
駆動方式 :テンプ駆動方式
製造開始 :1973年(昭和48年) 亀戸
エルニクスは1.3Vの水銀電池仕様ですが1.55Vの酸化銀電池でも問題なく動きました。このエルニクスがセイコーの最後の電磁テンプ式時計です。時計がオーバーホール対象である。歩度は+20秒/日でまずまずであるが、振り角が約150°と小さい。技術解説書の修理点検手順では振り角合格の判定は220°以上ということなので振り角の改善に取り組みました。技術解説書では振り角不足の要因として①テンプとコイルのスキマ、②逆転止レベーバネの調整、③アンクル引きがあげられている。写真右側のELNIXも振り角は180°であり220°以上を満足していません。
<分解途中での点検結果>
①テンプとコイルのスキマ→問題なし
②逆転止レベーバネの調整→問題なし
③アンクル引き→引きがにぶく問題あり→引き磁石に鉄粉が付着していたのでロディコで除去した。
以上を確認したうえで、分解→洗浄→組付・注油→調整の手順でオーバーホールした。
アンクル引き磁石にかなり、多くの鉄粉が付着していた。ロディコで鉄粉を除去した。
<分解・洗浄・注油・調整後>
振り角は改善しませんでした。確認した項目は以下の通りです。
①アンクル引き磁石を除去→状況かわらず
②逆転止レベーの再調整→状況変わらず
③テン輪上下に各2個ある磁石の鉄粉(少ない)除去→状況かわらず
④ヒゲゼンマイの修正(→ひげ修正詳細)
文字板上の姿勢でまれにテンプ受にわずかに接触することにより振りが落ちることがありましたが、解決しました。
⑤秒針カナはバネで押さえられているが、秒針カナのホゾは磨滅し、バネ押え面に凹の摩耗、かじりキズが見られた。振り角不足を引き起こしうる要因なので写真ように受け石で秒針カナを受け抵抗を小さくする処置をとりましたが振り角の改善は特に見られませんでした。
<振り角不足は逆転止めレバーの再調整で改善できました。>
技術解説書の3つの要因について再検証した結果、逆転止めレバーを時計を動作させながらの調整した結果、大きな振り角を得ることができ、安定した約200°の振り角に改善できました。
上記手順は技術解説書からの抜粋です。⑥項の全歯についてスキマをチェックすることが要求されていますが、実施していませんでした。つまり、全歯に対して平均的に適切なスキマになるようレバーを調整せよということです。時計動作状態で顕微鏡でスキマを観察すると全歯のスキマを繰り返し見ているということになると考えられます。時計動作状態で顕微鏡を見ながら調整した結果、振り角を改善できました。アンクル停止状態での調整ではなかなか振り角の改善ができませんでした。
技術解説書には動作状態での調整は記載がないので、動作状態での調整は不適切なことかもしれませんが良い結果を得ることができました。
時計動作中に上図B,Cをドライバで回しスキマ調整すると振り角が不安定になったり、安定したりすることが確認できました。10分間、1分ごとの振り角値は上表のとおりです。顕微鏡でスキマを注視しながらの調整で僅かの差異で振り角は大きく変わります。
今後の長時間ランニングで振り角がどのように変動するかは確認が必要です。振り角を変動させている別の要因が潜んでいるかもしれない。ELNIXは今回、初めての修理であったことからたいへんに良い勉強になりました。他の2個のELNIXについても同じ方法で点検・調整をしてみたいと思う。
<修理完了> 2013-4-24