お客様のお話
祖父の形見で、30年近く動かしてません。祖父はずっと愛用しておりましたので、随分前のものかと思います。時間はいくらかかっても結構ですので修理を検討してほしい。
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(この時計はおそらく1900年~1920年ごろ製造されたものと思われます。
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この時計は以下の修理すべき個所がありました。
1.主ゼンマイががへたっている。
2.リューズが巻真から抜ける。
3.ゼンマイを巻く時にガリガリ感がある。
4.文字板の穴に時針、秒針が接近し接触しそうである。
5.ヒゲゼンマイが変形している。
<修理品の香箱のフタをあけた状態>
この状態でゼンマイの死活を判定できる方法が私の教科書「時計修理技術読本」に書かれていましたので紹介します。
<ゼンマイを香箱から取り出した状態>
この状態でゼンマイの死活を判定できる方法が私の教科書「時計学講和」に書かれていましたので紹介します。
<判定法>
香箱のフタをとって見て、空隙内に左図のようにコイルが二巻き以上あれば取り替えねばならない。
この視点で修理品を見ると空隙内に2巻+1/3巻があります。2巻き以上であり交換しなくてはなりません。
<判定法>
全舞が第七十八図のイの如きは、活動力のあるものなれど、ロの如きは廃物にして既に其活動の弾力性を失へるもの故、此れまた取換ふる必要がある。
修理品を見るとイとロの中間ぐらいにみえますが、内端側のコイルの間隔が狭くなっており活動力が減少しています。交換要と判断できます。
左は新しいゼンマイ、右は修理品のゼンマイです。
新品は内端のゼンマイの間隔が大きいです。もともと修理品より長いゼンマイでしたので長さを合わせて切断し折り曲げて引っ掛けをつくりました。
巻真のネジ部、リューズのネジ部が共に摩耗していてわずかの引っかかりしかなく、リューズが抜ける状態でした。
修理:巻真の作り直し
巻真とキチ車のスキマが大きくガタガあり、キチ車が傾きます。巻真の回転はツツミ車→キチ車→丸穴車→角穴車(ゼンマイ)という経路で力が伝達されます。キチ車が傾くと丸穴車の歯車との噛み合いにガリガリ感がでます。
修理:巻真の作り直し
この図は時計学教科書(佐藤雅弘 著)の85ページより抜粋しました。
上が自作した交換用の巻真です。下がオリジナルです。
<キチ車部位の寸法>
修理品1.46mm→交換用は1.52mmに太くしました。
昔の時計の巻真です。リューズに四角柱の巻真を叩きこんでいます。ネジがゆるむ心配はありません。
修理品のリューズのネジは摩耗していましたので、巻真を四角柱(テーパーあり)に加工し昔の方法でリューズを取り付けました。
過去に修理した4時位置の足が折れていたので新規に足を付け直しました。文字板足折れ取付機を使用しました。クリームはんだの量が多すぎたがしっかり付いた。極細丸ヤスリで余分な半田をすこしづつ削り取った。針位置が改善しました。
二番車、テン輪の腕に接触しないようすること、緩急針部分のゼンマイの変形の修正は私にとっては大変に困難な作業でした。結局は以下の手順を繰り返しました。
①ヒゲ栓を抜いて、ヒゲ持を外し整形する。
②ヒゲゼンマイにヒゲ持をつける。(ヒゲ栓使用)
③テンプ受けにヒゲゼンマイのひげ持を取り付ける。
④ヒゲ玉と穴石の中心、緩急針の部位のヒゲ位置が合うまで整形
⑤OKならテン輪に取り付けムーブに組み込んで調子よく動くか
⑥6姿勢すべてOKか
(このヒゲゼンマイ整形作業に平行し片重り検査もしました。かなり強い片重りがあり、修正しています。)
追記:新しいヒゲゼンマイに交換しようとも試みましたが、バネの巻き数、弾性など合致するものがなくヒゲ合わせができませんでした。
左がオリジナルのヒゲゼンマイです。
<修理完了>
2012-1-23
今回の修理は2か月もかかってしまいました。
<修理後の性能>
持続時間:24時間、歩度:±5分(リューズ上)
ランニングでは24時間で-1分程度でした。
(持続時間が短いのはゼンマイ選定の問題です。)