巻真の製作 「時計修理技術ガイド4」 高橋雅巳

(3)出来合い巻真工作法

出来合いの巻真を見本に合わせて工作するする場合がある。レース等を備えて居る場合は正確なものもできるが、一般はどうしてもヤスリ仕上げをすることとなる。問題になるのは見本に合す方法である。ノギス等により各部分の長さなどを図ることが正しい仕事であるが、要は早く良い仕事が出来ればこれに越したことは無い。巻真を工作するには四ツ割チャックに咥えなくてはならない。くわえられた巻真は何処かの部分が中に入って了うので、例えばツヅミ角胴などの長さを知ることができない。これをそのままにして長さなどを求められるのである。それには覗パイプというものを作って使用する。(略図参照)

長さ等は適当に使い易く作るべきで略図によらずとも宜しい訳です。材料は別に選ばずとも長短、二、三種類作って置く可きでしょう。

四ツ割チャックにハサんだ巻真へ覗パイプを差し込んで切込溝から巻真を覗ければ巻真がチャックからの出し入れ自由という事になり見本と工作する可き個所とを合わせることが簡単にできるわけです。つまり、パイプを差し込んだまま工作が出来るということになり、ノギスなどを使用する要はありません。如何です巻真合わせでもやってみたくありませんか?

 

(4)巻真新規製作法

時計師の腕を見るのに、巻真を作らせてテストするといった様に巻真新規は簡単なようで技術を要する仕事である。私はこの仕事を合理的に仕上げる方法として巻真用工具略図でご覧の通り一寸した工具の改良をして見た。勿論レース仕上げではない。平ヤスリの上角をグラインダーで摺落とし、図の様にする事により巻真角部のマチを正しくする事が出来る。

 

尚小物の組ヤスリの平を片面だけ摺落して、厚さを薄くする事に依りオシドリ

爪溝を切込むことができる。巻真新規は折れた、紛失した時のみではない。ソロバン玉の入る巻真穴が磨滅すると巻真抜けを生じて来る。いくら専用品をいれても無駄である。斯うした場合は見本にこだわらず新規製作をした方が早く立派な仕事ができる。

工具は角頭の四ツ割(チャック)を加えて用意ができたわけでいよいよ新規に取掛りましょう。工程上巻真略図を示しましたので御覧ください。

材料=適当なるスチール

①ソロバン玉の太サを巻真穴に合わして決める。

②ホゾ穴に合わせてホゾ先を仕上げる。

③キチ車溝外側に合わしインク等によりポイント記点する。

④キチ車穴に合し、ツヅミ角胴と共にキチ車ド―ヅキを仕上げる。

⑤竜頭ネジ、ネジ道を切る。

⑥キチ車縦歯厚さに合してツヅミ角ドーを仕上げる。(この際、覗パイプ使用)

⑦押鳥ツメ位置にポイントして爪溝を切込む。

以上で巻真は出来たのであるが、マチ切りヤスリで仕上げを施せば上々作といえることになります。以上は見本に依らず製作する方法で私はこの方法をおすすめする。この工程で一番技術を要する個所は⑥ツヅミ角ドーの工作であるが角頭四ツ割の使用に依って立派なものになります。ネジ先は三角のきり先の如くして竜頭のネジを切るに便なる様に仕上げることである。(一般のタップの如し)